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福岡高等裁判所 昭和43年(ム)25号 判決

主文

本件再審の訴を却下する。

再審費用は再審原告の負担とする。

事実

再審原告訴訟代理人は「一、原判決(当庁昭和三九年(ネ)第六五九号損害賠償等請求控訴事件)及び第一審判決(熊本地方裁判所昭和三七年(ワ)第二二二号損害賠償請求事件)を取消す。二、再審被告は再審原告に対し再審原告が熊本市大江町本字居屋敷一四三番地の三及び六の土地のうち、右第一審判決末尾添付図面の(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(ヨ)(チ)(イ)の各点を順次連結する線で囲まれる地域につき地上権を有すること並びに同番地の二及び五の土地のうち、同図面の(ホ)(ヘ)(ト)(ヨ)(ホ)の各点を順次連結する線で囲まれる地域につき通行権を有することを確認する。三、再審被告は再審原告に対し金一五万円を支払え。四、訴訟費用は再審被告の負担とする。」との判決を求め、再審被告訴訟代理人は主文同旨の判決を求めた。

再審原告訴訟代理人は本件再審の事由として次のとおり陳述した。

一  本件当事者間の熊本地方裁判所昭和三七年(ワ)第二二二号地上権確認等請求事件において再審原告が敗訴し、その控訴審である当庁昭和三九年(ネ)第六五九号損害賠償等請求控訴事件において昭和四〇年四月三〇日控訴棄却の判決言渡があり、再審原告はこれに対し上告したが、最高裁判所において昭和四一年三月一一日上告棄却の判決言渡があり右判決は確定した。しかるに当庁の前記判決の証拠となつた証人若宮清二の証言は虚偽であるとして当庁に再審の訴を提起したところ昭和四一年一一月九日これが却下の判決を受けたので、これに対し最高裁判所に上告したが、民事訴訟規則第五〇条の上告理由書提出期間経過後である昭和四二年二月一五日に至つて右若宮清二は前記熊本地方裁判所昭和三七年(ワ)第二二二号事件の証人として虚偽の陳述を為したとして同裁判所において同人に対し偽証罪として有罪の判決(懲役六月執行猶予三年間)の言渡があり、右判決は同年三月二日確定した。そこで再審原告は右有罪判決確定の事実を上告理由として追加したが、理由書提出期間経過後のものとして許されず結局昭和四三年八月二九日上告棄却の判決があつた。右若宮清二の証言は前記熊本地方裁判所昭和三七年(ワ)第二二二号事件の判決の重要な証拠となつており、右判決を維持した同事件の控訴審である当庁昭和三九年(ネ)第六五九号事件の判決においても右証言が引用されていることが明かである。してみると、当庁昭和三九年(ネ)第六五九号事件の判決については民事訴訟法第四二〇条第一項第七号第二項前段の再審事由があるので本件再審の請求に及んだ。なお再審原告において右再審事由があることを知つたのは結局前記再審事件の上告審の判決言渡がなされたときである。

再審被告訴訟代理人は答弁として次のとおり述べた。

一  再審原告主張の各訴訟の経過は認めるが、その再審事由とするところは熊本地方裁判所昭和三七年(ワ)第二二二号事件の判決及び当庁昭和三九年(ネ)第六五九号事件の判決の証拠となつた証人若宮清二の証言が偽証であり、これにつき有罪の判決が確定したというにあるが、再審の訴は当事者が判決確定後再審事由を知つた日から三〇日内に提起することを要し、右期間は不変期間である。しかるに再審原告は若宮清二が偽証罪として有罪判決を受け右判決が確定したことを昭和四二年一一月一日以前において知つている。すなわち、このことは原告を再審被告とし、被告を再審原告とする熊本地方裁判所昭和四二年(ワ)第三九一号損害賠償請求事件において、被告訴訟代理人たる本件再審原告訴訟代理人の昭和四二年一一月一日付同庁に提出した答弁書に右有罪判決確定の事実を主張していることにより明かである。しかして本訴提起は昭和四三年九月一四日であるから前記不変期間経過後の訴であり不適法である。

証拠(省略)

理由

本件再審の訴の目的である本件当事者間の当庁昭和三九年(ネ)第六五九号損害賠償等請求控訴事件の判決が再審原告主張の経過で確定したことは当事者間に争いがない。よつて本件再審原告主張の再審事由の有無について検討するに、成立に争いない甲第五、第六号証によると、右判決の証拠として右事件の第一審たる熊本地方裁判所昭和三七年(ワ)第二二二号事件において為された証人若宮清二の証言が引用されていることが認められ、更に成立に争いない甲第一、第二号証によると、本件再審の訴提起前、右若宮の証言が偽証であるとして本件再審原告より当庁に対し右控訴審判決に対する再審の訴が提起され、昭和四一年(ム)第四号事件として審理されたが、当時右若宮は偽証罪として告訴を受け検察庁において取調の段階であるとの再審原告の主張から民事訴訟法第四二〇条、第二項の要件を具備しない不適法の訴として却下されたこと、再審原告はこれを不服として更に最高裁判所に上告したが、右原審の判断が維持され傍論として若宮に対する起訴事実について原審口頭弁論終結後である昭和四二年三月二日有罪判決が確定した旨主張されたとしても右有罪判決確定の事実は原判決に対する再審の訴の再審事由となるものではないからこれを上告理由として採用できないとして昭和四三年八月二九日上告棄却の判決が言渡されたことが明かである。しかるところ若宮が昭和四二年二月一五日熊本地方裁判所において前記証言が偽証罪に該るとして有罪判決が言渡され、右判決が同年三月二日確定するに至つたことは当事者間に争いがないから本件再審の訴は民事訴訟法第四二〇条第二項の要件をも具備するものといわなければならない。

しかるに本件再審原告において右再審事由の要件の一つたる右有罪判決の確定を知つた時期について争いがあるのでこの点について考察すると成立に争いない甲第八号証、同第九号証の七を総合すると、原告本件再審被告、被告本件再審原告代表者間の熊本地方裁判所昭和四二年(ワ)第三九一号事件の訴訟においてその被告代理人であつた本件再審原告代理人荒木鼎提出の昭和四二年一一月一日附作成の答弁書において右若宮の昭和三七年(ワ)第二二二号事件についての証言が偽証罪として起訴され有罪の判決があり、右判決は確定した旨述べられていることが認められ、右認定の事実からすると、本件再審原告は右答弁書作成前に若宮の有罪判決確定の事実を知つていたものと推認される。再審原告はこの点につき右有罪判決確定の事実を再審事由とすべきことを知つたのは前記昭和四三年八月二九日再審事件についての上告棄却の判決がなされた時であると主張するが、前記認定の訴訟の経過からしてこれを認め難いのみならず主張自体としても理由がない。

そうだとすると、本件再審の訴が提起されたのは昭和四三年九月一五日であることが記録上認められるから、再審原告が右再審事由となるべき事実を遅くとも知つた昭和四二年一一月一日より起算して民事訴訟法第四二四条第一項所定の再審期間三〇日を徒過してなされたものであることが明かである。

よつて本件再審の訴は不適法として却下すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

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